群発頭痛とTACs(三叉神経・自律神経性頭痛)

概略

群発頭痛とは典型的には、

  • 何年かに一度(周期性)
  • 群発期に入ると(連続性)
  • 深夜から未明の決まった時刻に(規則性)
  • 片側の目を中心に、激烈な痛みが起こり(重症、三叉神経の症状)
  • 開始・終了は1分程度と、急激であり、15分~180分持続し(突然発症、短時間)
  • 痛い側の目は充血・流涙し、まぶたは下がり、汗ばみ、鼻水も出る(自律神経の症状)

という頭痛です。他の頭痛とは全く異なる経過であり、専門の医師が正しく聞き取れば診断を間違うことは、まずありません。激烈な痛みは、世界3大疼痛の一つとされ、「目が取れるよう」「目の中に心臓がある」「目の奥をキリでえぐられる」と例えられます。海外では痛さのあまり、痛い目に向けて銃を撃ったという例もありました(一命はとりとめたそうです)。

なお群発頭痛はTACs(Trigeminal Autonomic Cephalalgias; 三叉神経・自律神経性頭痛)の一つに分類されています。これは「片側の目の充血、涙など、頭部自律神経症状を伴う頭痛」です(頭部自律神経症状があれば即TACsとは言えず、片頭痛も否定できません)。次の表にまとめました。片頭痛の有病率は10万人あたり10000人(10%)ですので、片頭痛と比較するといずれも稀ですが、激烈な痛みであることが特徴です。片頭痛は頭痛で動けなくなってしまいますが、TACsはあまりの痛さでじっとしていられず、動き回ってしまいます。また診断する上で、インドメタシンが有効か無効かを必ず確認する必要がある、という点もTACsの特徴です(indotest)。

TACsの分類と特徴

群発頭痛 発作性片側頭痛 短時間持続性片側神経痛様頭痛発作(SUNHA:SUNCT/SUNA) 持続性片側頭痛
痛む場所 片側の目の周り(奥) 片側の目の周りから側頭部(面) 片側の目の周り(奥) 片側の側頭部(面)
持続時間

15~180分(1時間前後)

1~45分(分単位) 5~240秒(秒単位) 持続した痛みに加え、時折激しい痛みを繰り返す
発作頻度 0.5~8回/日 1~40回/日 1回/日~30回/時間 5~12回/日
有病率(10万人あたり)

100人(0.1%)

2人(0.002%)

6.6人(0.0066%)

1000人(1%)
インドメタシン

無効

有効 無効 有効
治療

トリプタン、酸素吸入

インドメタシン ラモトリギン、ガバペンチン、トピラマート インドメタシン

バリエーション

  • 周期:半年ごと、2-3年おきなど様々。
  • 群発期の長さ:数週間から半年を超えるものもある。1年以上続くものは慢性群発頭痛という。
  • 回数:2日に1回、1日1回~8回に及ぶこともある。
  • 時刻:夜が多いが、昼間でも起こり得る。

増悪因子

完全に群発期が終わるまでは飲酒は絶対に控えることが推奨されます。
そのほか、悪化させるものは、ニトログリセリン内服、シルデナフィル(バイアグラ®)内服、抗ヒスタミン薬(アレルギー薬・胃潰瘍薬など)、過度な運動、高温の環境、睡眠時無呼吸などとされています。

他の頭痛と関係

緊張型頭痛、片頭痛など、他の頭痛に加え、群発頭痛が起こることもあります。

また、群発頭痛に似た痛みとして、副鼻腔炎(蓄膿症)、緑内障発作、下垂体腫瘍、脳静脈血栓症などが挙げられます。群発頭痛みたいだけど何か違う、という場合はこれらを疑います。

緑内障発作の場合は、群発頭痛とは瞳孔の大きさが異なります(緑内障発作は散瞳、群発頭痛は縮瞳)。その他の病気は脳MRIを撮ることで簡単に見分けられます。まずは、頭痛外来や脳神経外科、脳神経内科を受診しましょう。

辛いところ

群発頭痛の治療痛みはもちろんですが、周囲の理解が得られないこと、次の痛みや群発期が起こる不安、持続することで睡眠不足になり緊張型頭痛も合併すること、薬剤でコストがかかること、などがあります。経験した方には良く分かると思います。

原因

未解明です。以下は代表的な仮説です。

  • 視床下部関与説:何らかの理由で視床下部から開始信号が出る。そこにはメラトニンが関わっている。そうでないと規則性が説明できない。
  • 三叉神経血管説:片頭痛と同じように三叉神経末端からCGRP(というタンパク質)が放出されるといった説。ガルカネズマブ(エムガルティ®)が有効であることの根拠とされる。
  • 三叉神経+自律神経説:三叉神経の過剰な興奮で副交感神経が刺激される。結果、涙、鼻水、発汗、ホルネル症候群などが出現する。
  • 血管説:海面静脈洞説、海面静脈洞近傍説、破裂孔近傍説など、頭蓋骨に出入りする静脈、動脈の拡張などで、自律神経に影響を及ぼす、といったもの。

その他、諸説があります。
少なくとも、痛み三叉神経が関わり、目の充血や涙、汗には副交感神経が関わっていること、規則性に視床下部が関わっていることは、間違いないと思われます。

推奨される検査

  • 脳MRI:トリプタンは明らかに有効ですが、脳動脈に狭窄がある場合は脳梗塞に至るため、初めてトリプタンを使う前は、必ず脳MRI検査を受けて下さい。リスクがある薬を使うので、その後も、1~3年に1度はMRIを確認しておきましょう。眼窩内(がんかない)腫瘍など、別件が原因の頭痛を否定するためにも、有効です。
  • 血液検査:肝機能、腎機能、尿酸値、甲状腺機能などの測定を推奨します。
  • 眼圧検査:急性緑内障発作と間違えると失明の危険もあるため、可能なら眼科を受診しましょう。

治療法・対処法

  • 残念ながら根治法はありません。
  • 各治療の有効性については、ガイドライン等に記載がありますが、現場感覚とは、ややずれがあるように思います。
  • 当院の見解としては、現実的な対処法は以下の通りです。

明らかに有効

 

  • スマトリプタン(イミグラン®)の内服、点鼻、自己注射が基本です(違いは、血液中に吸収されるスピードで、後者ほど即効性があります)。リザトリプタン(マクサルト®)、ゾルミトリプタン(ゾーミッグ®)など、スマトリプタン(イミグラン®)以外のトリプタンも各薬剤の個性を知っていれば、使い方によっては有効です。
  • 酸素吸入も有効です。何らかの理由でトリプタンが使えない場合、あるいはトリプタンが多すぎる場合のコストダウンとして、酸素は重要な選択肢となります。これらの方法を組み合わせる人も多いです(夜間は自宅で酸素、日中の外出時は自己注射、など)。
  • 片頭痛の新薬として2021年に国内でも発売されたガルカネズマブ(エムガルティ®)は、米国では群発頭痛に有効性が認められ、認可されています(300mg)。国内・欧州では、片頭痛のみに認可されていて、群発頭痛には保険適応はありません(片頭痛の場合、初回240mg)。詳細はCGRP関連片頭痛予防薬のまとめをご覧ください。

有効とされるが微妙なもの

  • ベラパミル(ワソラン®)、あるいは、ベラパミル+ステロイド(プレドニン®など)。ステロイドは劇的に効く場合もあるが、ステロイドそのものによって体調を崩すと本末転倒であり、また、副作用への注意も必要なため、慎重に使う必要があります。
  • 酒石酸エルゴタミン(クリアミン®)、後頭部ステロイド皮下注射、メラトニン、炭酸リチウム、カプサイシン、ガバペンチン、トピラマート、バクロフェン、神経ブロック、神経切除、放射線治療(γナイフ)、電気刺激は有効と主張する説もありますが、データが十分とは言えません。

無効なもの

脳深部刺激療法(DBS)、トリプタン大量療法(イミグラン6錠など)は、無効であることが証明されています。その他民間療法では便乗商法が多く、注意が必要です。

当院での治療

  • 過去、一度も脳MRIを撮ったことが無い方は、MRIを撮ってからトリプタンを処方します。MRIはご案内します。
  • まず、イミグラン(内服、点鼻、自己注射)を推奨します。健康保険法及び当局の指導により、イミグラン自己注射は最短で当院受診3回目以降でないと処方できません。
  • 在宅酸素療法は、ご希望の旨を診察室でお伝え頂ければすぐに手配可能です。担当各社を通しご自宅に手配します。3割負担の場合、月額約19500円です。室内用の機器は、室内の空気から酸素を作り出す装置で、ボンベはありません。外出用に酸素ボンベを追加する際は、別途加算があります。
  • 群発期はいつ来るか分かりません。過去に既に群発頭痛と確定診断がついていて、この度群発期が始まってしまった、という方は、群発頭痛・群発期専用レスキュー枠から、受診をご予約下さい。群発頭痛と確定診断されたことのない方は、通常の初診枠をご利用下さい。
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